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危うい縮減議論
定員割れ私立大学の近未来予想

2026年4月、財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会の分科会で、財務省は大学規模の縮減案を公表しました。2024年の時点で624校ある私立大学のうち、250校を削減するという方針です。この方針では、少子化の影響で定員割れに陥っている大学を整理するためで、我が国の私立大学の大半が私学助成金を受けており、定員割れを続けている大学をただ存続させるために税金が使われ続けることを懸念しての政策提言と思われています。

18年後の人口が容易に予測できる理由

こちらのグラフを見てください。これは、厚生労働省の人口動態統計をもとに内閣府が作成したものですが、我が国で生まれた子どもの数が「出生数」、そして一人の女性が一生の間に生むと推定される子どもの数を表す指標を「合計特殊出生率」と呼びますが、いずれも減少しています。

内閣府『令和7年版高齢社会白書(全体版)』より転載
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2025/html/zenbun/s1_1_5.html

例えば、2007年の出生数は108万9,818人、 2023年出生数は75万8,631人で、いずれも外国人を含んだ数字です。近年の4年制大学進学率が60%と仮定すると、2007年生まれの大学進学者数は約65万人、2023年生まれが大学進学をする2041年は46万人となります。つまり、単純計算で大学進学率は3割減となることは簡単に予測できます。
この3割減、つまり約20万人の減少を補うには、留学生や社会人の学び直しとして中高年の学生受け入れを増やすか、または合計特殊出生率を一気に増やすための施策を打たなければなりません。しかし、それらは現実的ではありませんから、増えすぎた私立大学の削減は避けられません。

「大学の四則演算・be動詞教育論争」はただの理由づけ

財政制度等審議会の分科会では、大学は「高等教育機関」であるのにも関わらず、四則演算(足し算・引き算・掛け算・割り算)とか、中学1年生で学ぶはずの英語の「be動詞」を授業で行っているという批判もなされました。この部分だけ切り抜くと、確かに小中学校で学ぶべきことを、高校を卒業し、それなりの学力を有しているはずの大学生が今になって学んでいると聞けば、偏差値の低い方から統廃合させた方が合理的だと考える気持ちもわかります。
それでは、入試偏差値50くらいの私立大学で、例えば文系学部の一般選抜で、英語と小論文の2科目だけで合格したなんて学生の場合はどうか。英語と国語はどうにかなるとしても、他の科目については、学力の担保はありません。
大学では、例えば法学部などの文系学部に入学した場合、専門とは違う教養科目として理系の「数学」や「物理」とか「地学」などを学びますが、中学校レベルの初歩的な知識を確認するような授業を行うのは普通です。いきなり高度なことを教えると、学生が付いてこられないからです。
文系学部は、「理数系科目が苦手だから」という理由で受験する人も多いのですから、中学校数学の「正負の数の四則演算」が苦手というレベルの人もいれば、物理なら「慣性の法則」を大学で初めて知ったとか、「大陸移動説」は知っていたけれど、そのような現象がなぜ起こるのかを知らなかったけれど、授業によって救われたなんて人もいます。
ただ、大学に教養科目が存在する理由は、専門外とされる教養の単位も修得することで、専門科目の学習に活かしてほしいという目的なのですから、大学側が学生の学力に合わせて基本から学ばせることを、大学生の学力低下の証拠とするのはおかしな話です。

ところで、この「偏差値50くらいの私大法学部で、数学・物理・地学が苦手で、大学の教養科目の授業で得た知識に救われた学生」というのは、35年前の私の実体験であります。つまり、学生のレベルに配慮した教育というのは、今に始まったことではないのです。

年25万人の入学者、全国に2800校ある専門学校の行く末は?

高校卒業後に進学する学校には、大学や短大とともに「専門学校」が存在し、全国に約2800校、ここ数年の入学者は毎年約25万にのぼります。
専門学校は、「専修学校」という学校種の中の「専門課程」のことを指します。就職に有利な職業教育を行う学校で、1年制から4年制までが存在しますが、2年制ないし3年制の課程であれば、修了者には「専門士」という称号が与えられ、4年制を修了すると「高度専門士」が得られます。
大学と専門学校は、それぞれの成り立ちの歴史があるため、全く別の教育機関としての外観があるものの、専門士は4年制大学の3年次ないし4年次への編入資格が与えられ、高度専門士は大卒と同等と扱われるため、大学院修士課程への入学資格を有していることから、専門学校は短大や大学と同じ機能を有し、修得単位には一定の互換性があるのだから、ほぼ同属の教育機関ととらえることができます。
しかし、同種の学部・学科がある大学と専門学校の入試を比較すると、一般的には学力による選抜試験が行われる大学の方が難しく、面接重視の専門学校は易しいのです。入学時点の学力だけを基準に学校の存続を論じるのであれば、いわゆるFランク大学だけでなく専門学校も同様の議論の対象になってしまいます。しかも定員数を充足できない専門学校も多くあります。
偏差値の低い学校、入学者が減少した学校を削減対象とすると、これまで職業教育を担ってきた専門学校も一律削減の憂き目に遭ってしまうことになります。

縮減が避けられない時代の高等教育機関のあり方とは

学校設置基準の規定により、例えば大学を設立する場合は、敷地面積や施設の充実をするために莫大なコストがかかります。更に、それら施設の維持費もかかります。学校を運営するための教員数を最小限に抑えるなどの経営努力をしたとしても、損益分岐点を下回ることがわかった時点で廃校を決定しなければなりませんが、地方自治体としては地元の大切な教育の拠点を失ってしまうことになります。
地方都市であれば、地域に点在する4年制大学を2年制に変更し、2年制を卒業した者は短大卒(短期大学士)の資格を与え、都市部の4年制大学の3年次編入を容易か無制限に認めるなど、地元の人たちがアクセスしやすいような分校化と、より上位の学修を希望する人たちに向けた教育機会の確保を国全体として保障していくといった大胆な取り組みが必要だと思います。

進学希望の本人やその親が目指す、本来の大学へ

私たちは、大学への進学について、学校名や偏差値でとらえがちです。かつて大学受験予備校が生徒を集めるために、早慶、MARCH、日東駒専、関関同立といった名門大学群を作り出してきましたが、そのブランド化と引き換えに、地方に点在する大学や専門学校の価値を下げてきたことに気づかなければなりません。
また、受験戦争が加熱しすぎるあまり、受験に必要な科目ばかりに偏った学習を強いられるがあまり、大学に入学する頃には学ぶ意欲を失ってしまう若者も多くいました。
わが国にとって、少子化は社会を支える人材が減少することなので、決して良いことではありませんが、若者にとっては苛烈な受験戦争を経ずとも大学へ進学できる機会が増えたということになります。
本来は、地元の経済を支えるための人材を地元で養成していくために設立されたのが地方の私立大学なのですから、可能な限り自宅から通える距離にある、地元の高等教育機関を活用すべきでしょう。

松本肇(まつもと・はじめ)
教育ジャーナリスト

専門分野は大学改革支援・学位授与機構を活用した学位取得方法、通信制大学・通信制高校・高卒認定試験・専門学校など。著書「短大・専門学校卒ナースが簡単に看護大学卒」等。
いわゆる「学歴フィルター」と呼ばれる価値観よりも、大学で得られる「アカデミックスキル」という数値化しにくい教育の有無に関心がある。
日本テレビ「DayDay.」、フジテレビ「めざまし8」、「ホンマでっか!?TV」、ABEMA「アベマプライム」などでゲストコメンテーターを務める。