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みんなには笑われても、
実はFランク大の
コスパ・タイパが最強な理由

みんなには笑われても、
実はFランク大の
コスパ・タイパが最強な理由

一般に「Fランク大学」と呼ばれる大学は、大手予備校が算定する入試偏差値が35未満、または「ボーダーフリー(BF)大学」と呼ばれる大学群を指します。これは、高校を卒業した人であれば、誰でも入学できるレベルの大学を指し、予備校等で使われる用語とされています。
文部科学省は、入試偏差値ではなく、入学定員の定員充足率で、概ね7割に満たない大学について、新設の学部設置を認めないという施策をとっています。それでは、このように呼ばれる大学について、進学する意味がないとか、全く評価されないのかというと、必ずしもそうではありません。

「学歴フィルター」という人事の呪い

予備校に通っている、あるいは通ったことのある人なら、一度はどこかで「学歴フィルター」という言葉を聞いたことがあると思います。入試偏差値の上位大学から中堅大学くらいまでを並べてランキングを作った時の、早慶上理(早稲田・慶應・上智・東京理科)、MARCH(明治・青山学院・立教・中央・法政)や、日東駒専(日本・東洋・駒沢・専修)などのランキングに入っていない大学は、就職活動の時のエントリーシートの時点で弾かれてしまう。だから、それなりのランキングに入っている大学を出ていないと就職時に不利という話です。

果たして、そのような制度が本当にあるのでしょうか。残念なことに、「学歴フィルター」と呼ばれる志願者振り分けは確かに存在します。これは人気企業に応募が殺到した場合、大学のランキングで分けておかないと作業が膨大になってしまうという事情です。例えば、50人を採用するため、1000人くらいの応募を見込んで求人してみたら、1万人もエントリーされてしまったなど、その事務作業だけで忙殺されてしまうからです。

確かに、ある上場企業の人事担当者に「エントリーシートが大量に送られてくると、どれを選んでいいのかがわからなくなる」と聞いたことがあります。今はAIを活用して自動で振り分けするシステムがあるかもしれませんが、10年くらい前はあまりにも同じようなデータが集まり過ぎるため、大学のランキングで足切りしてしまった方が楽だからです。しかしながら、判で押したような大学名と無難なデータからでは学生の個性が見えず、人をふるい落としていくことに意味があるのかと、実は企業の側も疑問を抱いています。

「有名・上場企業フィルター」という学生の呪い

企業が学生を大学名によるランキングで判断するように、学生は民間企業への就職活動を行う時、その企業が有名かどうかとか、上場会社か否かで判断します。現に、大学のオープンキャンパスで配布されるパンフレットで卒業生の就職実績を見ると、誰もが知る有名企業や上場企業が目立つように書かれているのが普通です。

これは学生が企業を選ぶ基準となる「上場フィルター」とも呼ばれています。上場が評価対象になる理由としては、中小企業と比較して、安定性、社会的信用、福利厚生、キャリアアップの機会などが挙げられるからです。

日本取引所グループが発表している「上場企業」は、プライム、スタンダード、グロース、TOKYO PRO Marketを合わせて約4000社あります。

上場企業4000社に対し、大学は800校、専門学校は2800校です。それを考えれば、大学のランクや上場の有無は無数の組み合わせがあるということになります。
つまり、学生も企業も互いに「フィルター」があって、相互にその価値を探りながら採用を模索するけれど、結局は企業と学生がマッチングすればよく、そのプロセスには、あらゆる可能性があるわけです。
無数に存在するマッチングのうち、例えば学生アルバイトからの採用が一つの例です。

注)日本取引所グループのホームページから転載
https://www.jpx.co.jp/listing/co/

アルバイトからの採用も少なくない

企業はそれなりのコストをかけて正社員を採用しますが、筆者が過去に取材した企業の人事からは、学生アルバイトとして在籍した上で当該企業や同業他社に就職するケースを数多く聞きました。確かに、飲食チェーン店のアルバイトから同社の正社員というのは無数にあります。また、目標とする上場企業への就職は果たせなかったけれど、関連子会社への就職はできたというケースもあります。

筆者に関していえば、およそ30年前ですが、羽田空港でのアルバイトから大手航空会社、データ入力のアルバイトから大手広告代理店、塾講師のアルバイトから塾を運営する大手出版社への誘いなどがありました。いずれも、就職活動の時期に本当に誘いがあったほどです。

企業は「大卒」であれば十分と考えている

期待の新人を採用したものの、「有名大卒なのに使えない」、「有名大卒を鼻にかけて目先の簡単な仕事ができない」、「常識が乏しく、本当に大学を出たのか疑わしい」という、期待外れの若者の存在は、めずらしいことではありません。これは決してその新人が悪いのではなく、大学受験に必要な知識と、大学の単位を修得する知識や経験が、必ずしもその企業で評価されるわけではないというミスマッチが生ずるからです。
長い時間をかけて就職活動をしたはずなのに、入社数日で辞めてしまう若者が一定数いるのは、避けようがありません。

そのような経験から、大学名を聞いて、「この大学を卒業した人なら仕事ができて、長年勤務してくれる」などと確信することは難しく、むしろ多様な大学、多様な学部から採用し、育てながら適性を考えていくのが普通です。
それでは、大卒なら十分とはいっても、本当に無名や偏差値の低い大学でも良いのかという疑問が出てきます。

Fランクと呼ばれる大学の実態

2025年5月、財務省の有識者会議で偏差値の低い大学の授業では義務教育レベルの講義を行っていることが指摘されました。数学の授業で四則演算や分数、英語の授業ではbe動詞の基本を教えていることが、果たして大学教育と呼べるのかという疑問や批判的意見がマスコミで報じられました。

こうした教育内容を聞くと、ものすごくネガティブな印象があり、「Fランク大学」というレッテルを貼られたら、学生も企業も不安になるはずです。この呼称は、どちらかといえば侮辱的な意味があり、具体的な学校名を挙げる訳にもいかないのですが、その価値について、考え方を示しておくべきだと思います。

Fランクでいいから大卒資格は取るべきである

匿名掲示板「2ちゃんねる」創設者の「ひろゆき」こと西村博之さんが、ご自身のYouTubeやインターネット配信番組で、「どこでもいいから大学を出て学士を取っておくべきだ」と、しばしば述べています。ひろゆきさんは言葉がきついことでも知られていますが、同氏によれば、「資格も能力も無い人でも就職にたどりつくことができるのが学歴」と呼んでいます。つまり、高卒よりもひとつ上の学歴なのだから、就職の機会を増やすために大学へ行けということです。

実際に、どこの大学を出ているかというのは、社会人になってからはほとんど関係がありません。単純に、与えられた業務をこなすことができればいいからです。それで、中卒・高卒でも問題ないようにも見えますが、現実に、明確に「大卒」などと書かれた求人も多いのです。大卒向けの求人にエントリーできるかどうかは、学歴フィルター設けている一部の人気企業を除き、Fランクと呼ばれる大学でも十分に基準を満たしていることになるからです。

自動車の運転手を募集する時、応募者に要求されるのは運転免許証であって、どこの都道府県の何という自動車学校を卒業したかについて、何ら意味をなさないのと同じです。
一般に、費用対効果を「コスパ(コストパフォーマンス)」、時間対効果を「タイパ(タイムパフォーマンス)」と呼びます。入試に際し、無理な受験生活を送ると、それだけで塾や予備校の授業料がかさみます。1年間の浪人生活を選ぶと、就職も1年遅れます。就職に必要なのは「大卒(学士)」であって、別に有名大学卒である必要がないと考えて就職したとき、その大卒の平均年収が400万円と考えれば、就職が1年遅れるだけで生涯賃金から400万円を損するということになります。

就職して安定した収入を得ることが目的であると割り切れば、大卒であればそれで十分なわけです。そうなのであれば、コスパ・タイパを考えて進学するという考え方を忘れてはいけませんね。

松本肇(まつもと・はじめ)
教育ジャーナリスト

専門分野は大学改革支援・学位授与機構を活用した学位取得方法、通信制大学・通信制高校・高卒認定試験・専門学校など。著書「短大・専門学校卒ナースが簡単に看護大学卒」等。
いわゆる「学歴フィルター」と呼ばれる価値観よりも、大学で得られる「アカデミックスキル」という数値化しにくい教育の有無に関心がある。
日本テレビ「DayDay.」、フジテレビ「めざまし8」、「ホンマでっか!?TV」、ABEMA「アベマプライム」などでゲストコメンテーターを務める。