再編・統合時代は「お得大学」探しを!
2023.11
再編・統合時代は「お得大学」探しを!
2023.11
中央教育審議会(中教審、文部科学相の諮問機関)が、大学など高等教育機関の将来的な規模について、本格的な検討を始めました。9月末の諮問文の中では「再編・統合の議論は避けることができない」とも指摘しています。これから受験を考えようとする人にとっても、見過ごせません。今後の大学選びを、どう考えればいいのでしょうか。
まず、現在の大学が置かれている状況を押さえておきましょう。
主な大学入学年齢である「18歳人口」は、保護者世代に当たる1992年に205万人と、一つのピークを迎えていました。それから30年後、少子化が進み、子ども世代に当たる2022年度は112万人と、半数近くに落ち込んでいます。
逆にその間も、進学熱は高まる一方です。それを見越して、大学・短大の数は2000年まで増え続けました。その後は減少に転じたものの、4年制大学に限れば、短大からの転換が進んだこともあって引き続き増加傾向にあります。
しかし、そうした状況にも限界が迫っているようです。文部科学省の推計によると、進学率の頭打ちもあって、大学入学者数は2040年に51万人と2022年の8割に縮小。その後も2050年まで、50万人前後で推移する見込みです。
そうなると、今ある大学の数を維持することはできません。日本私立学校振興・共済事業団(私学事業団、文科省の外郭団体)の調査では今年、定員割れ(入学定員の充足率100%未満)の大学が53.3%と初めて半数を超え、短大も90%台に達しました。特に深刻なのが、地方にある中小規模の大学・短大です。
大都市圏でも2024年度以降の募集停止を発表する大学が、今年に入って相次ぎました。今後も撤退を検討する大学・短大が出てきそうです。
大学の志願者数等の増減状況 | |||
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R5年度 | R4年度 | 増減 | |
集計学校数 | 600校 | 598校 | 2校 |
入学定員 | 502,635人 | 497,939人 | 4,696人(0.9%) |
志願者数 | 3,713,827人 | 3,822,486人 | △ 108,659人(△2.8%) |
受験者数 | 3,547,308人 | 3,642,995人 | △ 95,687人(△2.6%) |
合格者数 | 1,494,758人 | 1,508,761人 | △ 14,003人(△0.9%) |
入学者数 | 500,599人 | 502,194人 | △ 1,595人(△0.3%) |
志願倍率 | 7.39倍 | 7.68倍 | △ 0.29ポイント |
合格率 | 42.14% | 41.42% | 0.72ポイント |
歩留率 | 33.49% | 33.29% | 0.20ポイント |
入学定員充足率 | 99.59% | 100.85% | △ 1.26ポイント |
入学定員充足率 100%未満の学校数 |
320校(53.3%) | 283校(47.3%) | 37校(6.0ポイント) |
志願倍率=志願者数÷入学定員,合格率=合格者数÷受験者数,歩留率=入学者数÷合格者数,入学定員充足率=入学者数÷入学定員
※日本私立学校振興・共済事業団「令和5(2023)年度 私立大学・短期大学等 入学志願動向」から転載
では、大学・短大は自然とつぶれるに任されるのでしょうか。このまま放置していては、地方から大学がなくなってしまいそうです。
実はその点こそ、中教審のポイントです。諮問では「地域における質の高い高等教育へのアクセス確保」を求めています。今後も地方から大学などの高等教育機関をなくしてはいけない、というのが文科省=中教審のスタンスです。教育・研究の拠点が各地にあることが、その地方、ひいては日本全体の活性化につながるからです。
既に中教審は2018年11月に、自治体や産業界とも相談して地域の高等教育機関が今後どうあるべきかを考え、各機関の連携を進めるよう提言しています。これに基づいて、各地で「大学コンソーシアム(共同事業体)」や「地域連携プラットフォーム(基盤)」が整備されつつあります。
今回の諮問も、その延長線上にあります。つまり再編・統合といっても、各地域で一定規模の高等教育機関を残す形で進めてほしい、というわけです。
私学事業団は15年以上も前から、私立大学の経営が行き詰っても受け入れた学生は卒業まで責任を持つべきことや、仮に途中で破綻した場合でも近隣の大学などへ転学させる体制を取っておくべきことを、マニュアルで示しています。たとえ本格的な再編・統合の時代に入ったとしても、一度入学できれば卒業まで安心です。
逆に今は各大学が生き残りを懸けて、勉強の仕方から学生生活、就職に至るまで「面倒見の良さ」を打ち出す傾向にあります。受験生にとっては、経済的にもメリットがある「お得大学」をじっくりと選べる時期だとも言えるでしょう。
渡辺敦司(教育ジャーナリスト)
渡辺敦司(わたなべ・あつし)
教育ジャーナリスト
1964年北海道出身、横浜国立大学教育学部卒。教育専門紙「日本教育新聞」記者を経て98年よりフリー。主著に『学習指導要領「「次期改訂」をどうする―検証 教育課程改革―』(ジダイ社、2022年10月)。